背景の記憶(12)
小学校高学年の夏休みだったと思う。僕は、親戚の男の子と二人で、帰省していた叔父に和船の櫓の漕ぎ方を教わった。
あの頃は、祖父所有の小さな舟があって、浜辺からヨイショヨイショと押し出した。
島の海岸は、砂浜と呼べる場所はほとんど無くて、いきなり2〜3メートルの深さの海だった。
何事でもそうだが・・・見るのと実際にやるのとは大違いで、小さな舟なのになかなか自由に操れない。櫓はすぐに支点(何て呼ぶのやら?)から外れるし、櫓そのものが流されそうになるし全く手に負えない。
それでも何とか漕げるようになると、今度は意図する方向へ進まない。同じ所をグルグル廻ってばかりで、まるで飼い主に逆らう動物のようである。
叔父は二人の必死の格闘を笑いながら見ていたが、いよいよ先生の出番かとばかりに、直進・右回転・左回転のやり方を実演して見せてくれた。
なるほど・・・理に適っている。櫓の微妙な形状を改めて理解した僕たちだった。
湾の対岸の家に従兄弟を送り届けて、叔父と二人でまた元の浜へと向った。ちょっと廻りの景色を見る余裕も生まれ、ゆっくり大きくの漕ぎ方もマスターして、ひとまわり自分が大きくなったような気分であった。
夕暮れ近くの凪いだ海の美しさ・・・夕餉の支度の家々から立ち上る煙・・・
幸せとは〜あんな瞬間なのかも知れない。
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