背景の記憶(10)
学校が夏休みになると、僕は当然のように島に帰っていた。帰らされていたのかも知れない。
ある年の夏、小学三〜四年のころか?僕は親戚のおばさんの家へ呼ばれた。行ってみると・・・おばさんは僕と従兄弟に浴衣で女装をさせた。そして暗くなりかけてから、手拭いで姉さん被りをさせられ、浜で行われている盆踊りの会場へと連れていかれた。貧村の仮装舞踏会といったところか・・・。
浜には大きな櫓が組まれ、その上では青年団と思われるひとたちが競って太鼓を叩き、盆踊唄を代わる代わるに唄っていた。
「はぁ〜や〜はとな〜〜や〜はとな〜・・・」
私達(僕たち)はおばさんにポンと押されて、踊りの輪の中に入って行った。
一周回るか回らないかで、周囲がざわついてきた。 「こりゃ・・・だいかいな〜?」みんなが顔を覗き込んでくる。 それほどきつい照明もなく、なかなか正体はばれない。特に僕は地元民?でないので余計に判明しにくかったようだ。
やがて近所のおばさんが大声をあげた。 「こりゃ〜新宅(屋号)のあきちゃんだわい!」 まわりから「ひゃぁ〜あきちゃんかい?!」
笑い声と歓待の拍手とが起こり、一段と熱の入った唄と踊りへと 進んでいった。
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