わたなべあきおWeb

お見舞い

久し振りに入った病院は、まるで戦場のようだった

白衣の兵士は言葉数も少なく、忙しく動き回っていた

彼らとは対照的に、壁側の長椅子には

ひどく落ち込んだ傷痍兵たちが、俯いて座っていた

掻き分けるように目的の部屋へと向った

独特の臭いの淀んだ空気が、足取りを重くした

入口に名前を見つけ、一歩入った時

部屋中の視線が僕に突き刺さった

頼りない作り笑顔で、それらを切断しながら

僕は彼女の前に立った

両の眼は明らかに怯えているように受けて取れた

僕に出来ることは何?

一瞬の本物の笑顔で・・・

「大丈夫さ!」を表現した

安心と一つの決心めいたものが、彼女の目に現れた

差し出した花包みの色と香りが、ちょっとだけ部屋を和ませた

僕は・・・逆の立場の時

どんな顔をしていられるだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・

小一時間も居たかに感じられた数分間の後

僕はまた本物の笑顔と強く親指を突き出して、病室を後にした

わざと大股でゆっくりと長い廊下を歩いた

焼け野原の残骸や死体に転ばないように・・・

(Update : 2007/05/02)