3000キロ(2)
夜中に帰宅。入浴してすぐ睡眠。昼前、松江に向って出発。西と東の違いはあっても、走行距離はほぼ同じ。
夕方、実家に到着。休む間もなく通夜回向。享年89歳の義母は、肌も艶やかで綺麗な顔をしていた。「看護婦さんが丁寧にしてくれたから・・・」と親父の弁。(いやいやそれだけではこんな顔にはなりません。〜これは僕の心の弁)
地方によって葬儀内容は変わるもの・・・松江では先に焼き場に行ってお骨になって帰ってから〜葬式。慣れた順序と逆なので、ちょっと感じが変だった。
内々にとはいっても、親戚が集まればそれなりの人数となり、式後の席はいっぱいになってしまった。平素会わないもの同士で話が盛り上がり、怒りともなんとも言えない大声を出すものもいる。
そんな中、平素もの静かな父の大きな声が部屋に響いた。どうも兄との会話の中でのことらしい。兄のまわりの者をねぎらった言葉に対し、「たしかにそうかもしれんが・・・家内を亡くしたのはこのわしだぞ!」
一瞬、静寂の間があり・・・兄が詫びた。「いや〜、久し振りに親父に叱られた〜!スマン!」
たしかに、最も悲嘆にくれているのは父であり、気丈にここまで持ちこたえてきたのだ。あれこれ言葉をかけることよりも、静かに見守る心遣いに欠けていた。
もう二十年近く、脳溢血で倒れ半身不随で思考能力も弱くなった妻を世話し続けてきたのは父であり、誰も真似の出来ない尽くしぶりであった。
慰めでもなく・・・いたわりでもなく・・・何かすべてを込めた心が欲しかったに違いない。それが具体的に何なのかは、僕にも解らないが、ひたすら静かに傍に居続けることなのかと、酔いの回った頭で、僕は考えていた。
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