わたなべあきおWeb

大道芸

梅雨の晴れ間、広場の一角で人の輪ができていた。近づいてみると、ひとりの大道芸人が演技を披露していた。

BGMにのって、手品あり、パントマイムありで・・コミックショーと言っても、なかなかの腕前とみた。笛を巧みに使ったコミカルな演技に拍手が起こる。

次第に観客も増えてきたとき、最後の演目となった。彼は観客の中から四人の男性を招き入れた。このとき感心したのは、ひとを見抜く眼力というか・・見事に配役に適った人を選んでいることだった。

選ばれた四人も、最初は戸惑っていたが、次第に彼のリードにつられて、いっぱしのパフォーマーになりきってしまっている。そして、見事にラストの決め所が成功して、今度は要求されたものではない本物の拍手が湧き起こった。

観客のほとんどが立ち去ろうかどうしようかと、ちょっと迷っているとき、彼がマイクを握った。「今日はこの場所をお願いしてお借りしました。ギャラはありません。皆さんの拍手をカタチあるものに換えていただけますか?(笑)・・折りたためるものならなお有り難いのですが・・これが私の今日の食費、交通費となります。」と嫌みなく言って、山高帽を差し出した。

納得した観客が順々に彼の元へ歩み寄り、思い思いのお金を入れ始めた。もちろん僕も・・折りたためるものを・・。僕がその場所に背を向けて歩き始めたとき、うしろで彼の大きな声が聞こえてきた。「あ〜っ!いまお父さんに一万円戴きました!・・これはもらいすぎです〜!」・・・・彼の爽やかな人間性を見たようで、ちょっと嬉しかった。

歩きながら僕は想いを巡らせていた。人の輪の片隅で、彼の演技をちょっと心配そうに・・でもとても優しい眼差しで見つめていた女性がいたことに、気付いたのは僕だけだったんだろうか?奥さんかな?それとも・・恋人かな?

演技の中に溢れ出る彼の芸人魂と、終了後にチラッと見せた素直な青年の目の輝きに、素敵なプレゼントをされたようで・・僕はうきうきとしたとても幸せな気分に浸っていた。

(Update : 2005/07/03)