深夜、僕は翌日の研修会用のテキストを、謄写版印刷していた。階段下の片隅に置かれた作業台で、ひたすら刷り続けていた。彼女は隣の事務室でガリ版切りに必死だった。最後のページの原紙を、彼女が僕に渡しに来た時、無言ではあったが優しい空気が流れていた。そのわずかな瞬間を、トイレに下りてきていたＡさんが、どうやら近くで見ていたらしく、彼女が事務所に戻った後で、僕にこう言った。（Ａさんは彼女と同年代のお姉さんだった）「良い感じね。羨ましい・・・。わたしにはわかるわよ・・・」「えっ・・・」「あなたはまだ気付いてないかもしれないけど、きっとあなたのこと好きなのよ」「・・・・・」ほんとにこの頃は、何も気付いていなかった。ひとに言われて初めて意識した。僕が感じる以上に、女性の彼女には年齢差が重かったのだと思う。その内、かなりの部分を僕の幼稚さが原因していたことなど、当時の僕には解ろう筈がなかった。
庭先の花
（Update : 2004/04/08）
