あなたの心に
僕のこどもほどの年齢のあなたなのだけれど、間接的とはいえ、あなたの言葉が、僕には「天の声」と響き、あの時、僕は急ブレーキを踏んだんだ。
しばらくは廻りがよく見えなくて、自分の心臓の鼓動だけがやけに大きく感じていたんだ。
ふたたび僕は走り始めたのだけれど、Uターンするほどの勇気は持てなくて、でもスピードをシフトダウンする余裕は生まれてきたんだ。
やっと廻りの車の流れに合流できた僕は、闇雲に走り抜けてきた道程を振り返っていたんだ。そして自分では冷静なつもりでも、実は前しか見ていない、いつ事故を起してもおかしくないくらいの無謀運転だったことに気付いたんだ。
そしてやがて、綺麗な街路樹の並んだまっすぐの道に出て、僕はその片隅に、おかあさんと一緒に手を振るあなたを見つけたんだ。走り続けてきて良かった、逆戻りしなくて良かった、横道逸れなくて良かった・・・いっぺんに安堵の思いが湧き上がってきて、僕はゆっくり、ほんとにゆっくり、あなた達の横へ車を停めたんだ。
道路標識はちゃんとあったんだけどね。見てなかったんだね僕は。あなたはどこから僕の運転を見守っていてくれたんだい?僕は、僕は・・・あなたの心に・・・。今度はしっかり伝えたいんだ。
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