誕生日の夜
約束の日が近づくにつれ、僕の心は複雑だった。「わたしの誕生日に・・・」の彼女の言葉は、必要以上に僕を悩ませた。
素直な女心として受け止めれば、嬉しい喜ぶべき事なのだろうが、僕世代の倫理観みたいなものが、心の中に壁を立てていた。
誰に教えられたわけでもないが、ひとよりはかなり手前に一線を持っていた。おそらくは読書のおかげ?だと思う。
一方、彼女の仕事ぶりはすこぶる楽しそうだった。ウキウキ気分が言葉に仕草にストレートに表われていた。その彼女を見ていると、またまた彼女の希望を拒絶出来そうにない軟弱な自分がいた。
もう成り行きにまかせよう・・・そんな思いで、当日はやってきた。お祝いの食事の時、僕は意識的にお酒のピッチをあげていた。はやく酔っちゃおうという自分がいた。しかし困ったことに飲めば飲むほどに、僕の心も体も芯の部分は醒めて行った。
二軒目の静かな雰囲気のバーでは、彼女の方がほろ酔い気味で、僕は酔ってなどいられない立場になっていた。焦る僕、戸惑う僕。こんな時読書の成果はちっとも力を発揮してくれない。週刊誌でも愛読書にしておけば良かった・・・。
この展開になれば、このままで帰れるわけがない。慣れないどころか僕にしては初めての門をくぐることとなった。
|