都会の色
土曜日の夜、夕食に招かれた僕は、やや緊張の色は隠せなかった。いくら妹のような存在と言っても、急激に女らしさを増した彼女だっただけに、ある種の戸惑いもあった。
殊更明るい口調で、「おじゃましまあ〜す!」と言って僕はドアをノックした。「どうぞ〜」の声に、中にはいると見知らぬ女性が一人。間抜けな会釈をすると「向かいの**です。ど〜ぞごゆっくり〜」と意味深な言葉を残し、彼女には「じゃ〜ね〜」とこれまた訳の分からぬ手のサインを残して部屋を出て行った。
テーブルの上には二人で作ったと思われる、手料理が並べられ、部屋の照明もちょっと落として、雰囲気作りはバッチリのようである。どうやらお向かいの彼女は、こうしたことの指南役であったようだ。
「こないだはお世話になりました!」とやや儀礼的な言葉を発し、「どうぞごゆっくり召し上がれ」と、今度はちょっとおどけてビールの栓を抜いた。
開けっぴろげな明るい性格の彼女は、言葉も仕草もチャッチャッチャッ?と言う感じで、二人分、三人分の存在感があった。僕はひたすら聞き役で、彼女の重圧から解放された悦びの言葉に相槌を打った。料理はビックリするくらい上手に出来ていて、ほめることの下手な僕ではあったが、笑顔と箸の動きに表現したつもりだったが・・・。
やがて食事も終り、ちょっと話が途切れた瞬間、彼女は立ち上がりステレオのスイッチを入れ、灯りを消した。窓の外からの薄明かりの中に、二人は向かい合った。
これもお向かいの彼女の演出なのかと思うくらい、さりげない彼女の動きだった。快活な彼女が急に無言の世界になり、僕は何だかぎこちなかった。そんな中、僕はここ数ヶ月の彼女の変化を思い返していた。
少女のような彼女が、だんだん都会の色に染まってきて(良い意味でも悪い意味でも)ひとりの女性に変身してゆく姿に、僕は眩しさに似た感動を覚えていた。ただ一点僕の困惑は、彼女のいわゆる女心で、急激に増幅した彼女の恋心は、鈍感な僕にも目に見えて明らかだった。ストレートな表現は刺激的で、僕の反応を混乱させた。どちらが年上なのか解らないような、事?の展開にただただ(内心)うろたえる自分がいた。
「わたしの誕生日に・・・」この言葉がまた僕を悩ます原因となってしまった。
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