わたなべあきおWeb

プラトニック・・

集団生活は、夢のように時が過ぎて行きました。規律は正しく、みんな快活に暮らしていました。今思えば、信じられないくらい清廉で純情でした。

恋愛感情に近いものはあったとしても、それを抑制する心が、むしろ気高いと思うような雰囲気がありました。プラトニックラブとでも言うのでしょうか・・・それだけで大満足のみんなだったのです。

でも、青春の爆発力はすさまじいものがありました。一人の男性の(僕の尊敬する先輩)直接行動(?)が、集団の空気を一変させてしまいました。誰が見ても明らかな行動でした。カップルは丸一日、部屋から出てきませんでした。

僕たちには個別の部屋があったわけではありませんでした。それだけに、この事件?はショックでした。その二人がどうこうと言うよりも、それぞれの心の中であたためていた意中のひとに対する熱情が一気に揺れ動いて行ったのです。

僕は正直言って、子供でした。何も知りませんでした。でも思われている、慕われていることは感じていました。表には微塵も出さない彼女の仕草や言葉の端々から、感じ取るだけのハートは持ち合わせていたのでしょう。

週に一度の逢瀬の場所はいつも跨線橋の下でした。食後、入浴後から就寝までの僅か1〜2時間のことでした。甘く切ない抱擁の中で、僕は徐々に目覚めゆく自分を感じていました。

ある晩のこと。帰り際に彼女の口から「会議室に・・・」という言葉がささやかれました。「ん?・・・」僕は一瞬、解りませんでした。「どういうこと?」それからしばらくもまだ気付きませんでした。

夜遅くまで事務の残りをしている格好の彼女は、わざとみんなに聞こえるように、僕に手伝うよう言って、夜更けを待ちました。「お先に、おやすみ〜」ひとりまた一人と事務所から消えて行きました。

僕たちは隣の会議室に入り、机と壁のわずかなスペースにおいてあった毛布一枚にもぐり込みました。ただ抱き合って眠るだけ、でもそれがとんでもない世界に感じられて、なかなか眠りに入れませんでした。彼女の胸の鼓動を、吐息を、温もりを感じ、やがてほんとうの夢の中へ落ちて行きました。

(Update : 2004/03/22)