嫌なタイプ
サラリーマンの頃。 ある程度時代性もあるとは思うのだが・・・ほとんどの社員が朝礼が終り、外へ出るとまず喫茶店へ直行した。そこで1時間くらいは軽くすぎていった。喫茶店の廻りに、目立つ車がズラリと並べば一目瞭然で、お客様から電話が入り、事務員が丁重に「今日はいっぱいで・・・」と応対すると「わたしの目の前にあなたの会社の車、何台も止まってるじゃないの、何が忙しい・・よ」とおしかりを受けたこともしばしばであった。
昼は昼できっちり帰社して、ゆっくり昼食を済ませ、夕方は夕方でこれ又どこかで時間をつぶして帰ってきて、1時間もかけて日報を書くのが大半の社員の日常であった。それでも僕は、やることさえちゃんとやれば、成績さえしっかりあげるのなら許せるという位の考えは持ち合わせているつもりだった。僕は基本的にひとりで行動していたのだが、みんなの目に余る行動パターンに、僕は一石を投ずる意味もあって、次のような行動をとったことがある。
4時頃帰社した僕は、5分で日報を書きタイムカードを押して1階の事務所に下りて行き、社長や奥さんに「今日の業務終りましたので帰らせて頂きます」と言って会社を出た。みんなキョトンとしていた。路上ですれ違う社員が怪訝な顔をしていた。
だめ押し的なことが起こった。僕はある程度の能力(成績結果)主義が良いと思っていた。その方が励みにもなるし、良い意味での競争が生まれると信じていた。しかし、会社は年功序列主義であった。わずか1年早く入社した同い年の人と、営業成績では倍半分の差があっても、彼の方が給料は上であった。それではボーナスで評価を・・と思っても実現しなかった。
ある月の集金日、僕は当時の売り上げとしては最高の1千万を超える額の集金をして帰社した。しばらくすると社長に呼ばれ、「この得意先のこの値引きは何だ!」と怒鳴られた。この業界ではよくある端数をカットすると言うヤツだった。しかし1千万の中の1万数千円である。しかも小切手。僕はトータルで考えてくれよという不満はあったが、何より言われ方が頭に来た。「頂いてきます!」と捨てぜりふを残して外へ出た。得意先の社長に僕は「理由は聞かずに、僕の顔に免じてこの額の小切手を下さい」と頭を下げた。ことの内容を察した社長は小切手をくれた。小切手でなくてはならぬ理由が僕にはあった。自ら立て替えたと思われたくなかったのだ。
ふたたび帰社した僕は、無言で小切手を社長の前に叩き置き、誰とも口をきかず会社を出た。若いと言われればそれまでのことだが、何とも空しい一日となった。これも又、会社を辞めるひとつの伏線となった。
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