わたなべあきおWeb

道標

「どうしてそんなに変われたの?」
「僕、そんなに変わりましたか?」
「変わったわよ〜!あんなに恥ずかしがり屋で、内気で、女の子の前では話も出来なかったのに・・・」
「一種のショック療法ですかね〜」
「何それ・・・」
「喜怒哀楽すべてを、否応なしに強烈に体験すれば、人間変わらない方がおかしいでしょう」
「でも・・・どっちに転ぶかが問題でしょう?」
「僕はいつも、道標みたいな光りは見えてたんですよ。そっちへ行っちゃダメだ、こっちだ、こっちだという灯火がね」
「道しるべね〜・・・」
「でも・・・見えてたって言ったけど・・・ホントは導かれていた・・と思うんです。何なんでしょう?・・誰なんでしょう?」
「でも良かった!あなたが世間騒がせてる変な団体の中心的存在じゃなくて」
「どうしてそんなこと考えたんですか?」
「だって・・あなたってそういうとこあったから。一途というかまっすぐというか・・・」
「ホントは際どかったんですけどね。辛うじてハンドル切りました。思いっきりね。転回禁止をUターンしました。あとひたすら逃げました・・・」
「よくそんな勇気あったね〜」
「勇気かなあ・・・恐怖じゃないかなあ・・・それ以上行くと怖いと思った。尋常の怖さじゃなかった。上手く言えないけど地獄の一歩手前みたいな・・・」
「何はともあれ、あなたの穏やかな顔と目を見て安心したわ」
「ありがとう!わざわざ逢いに来てくれて」
「あまり冒険しちゃダメよ!」
彼女は優しく微笑んで電車に乗り込んだ。僕は見えなくなってもてを振っていた。

(Update : 2004/03/11)