第8病棟
大学病院のその病棟は、小児科難病患者の独立した病棟だった。小児ガンの患者が多く、数週間単位でベッドの主はいなくなっていった。重苦しい壮絶な闘いの場であった。
娘がその病棟に移って間もなく、家内は主治医に呼ばれた。「こういうことがキッカケで離婚されるのが多いんですけど・・・大丈夫ですか?」「えっ!」半分怒りを含んだ家内の無言の眼差しに、主治医はちょっとたじろぎ「失礼しました。あまりにも多いものですから・・・」と言って視線を書類に移した。
ヒューマンドラマにも見られるような、あの風景は現実であった。子供たちそれぞれはもちろんのこと、なによりも親が夫婦が家族が、あらゆる難敵との闘争を繰り広げていたのだ。
僕たち夫婦も、様々な言葉や視線の暴力にさらされていた。「うちの家系に・・・」これほどの冷酷な暴力はなかった。先が見えなくなるほどの涙の中で、ひとり、ほんとに独り、車を走らす僕がいた。
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