アポロの月
「あなたが結婚して間なしのころね、わたしは一番信用していた人の一番嫌な部分を見せられてね・・・あなたに愚痴とも不平とも言えないことを喋ったのよ」お義母さんはそう切り出した。
「あなたが25歳よね。その時あなたが何て言ったか覚えてる?」
「いいえ・・・」
「あなたはね、こう言ったのよ『おかあさん、人間完璧な人なんていませんよ。それに誰でも醜い部分は持ってるんですよ。あの月もこうして見ればキレイだけど、アポロで行った月はデコボコで、とてもキレイなものではなかったでしょう?』ってね」
「・・・・・」
「わたしね、あの時・・子供みたいなあなたに、あんなこと言うてもらえるって思わなかった。この人どんな道通って来たんやろうって・・・。教えられたようで、何か胸のつかえがとれたような気がしたんよ」
「偉そうなこと・・・言いましたね」
「あなたの話聞かへんかったら・・・人を信じられんようになってたと思うわ」
「僕は頭でっかちですから・・・どっかで聞いた話をしたんとちゃいますか」
「それでもいいのよ。あの時のあなたの言葉には、胸を打つものがあったから・・・」
なんで今頃こんな話をされるんだろう?と不思議に思った。そうか・・・あの頃は・・・僕は男一匹で、何にもなくて、娘をやるには頼りなくて・・・そんな中で多少でも「この男なら」と思ってもらえた事件?だったのかな・・・と想像したりした。
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