少女から女へ
電話の受け答えをしながら、彼女はそっとメモを隣席の僕に渡した。「お願いがあります。シャトーで待ってます」
僕は就職の際、意図的に、人との会話の少ない工事部門を希望した。人間関係に疲れた上での選択だった。髪も長くして極力ラフな格好で出勤し、それらしきスタイルを演出したところがあった。しかし自分の本質は隠し通せるはずもなく、電話の応対や会議等での発言で、徐々に営業分野への部署替えが行われていった。彼女は営業二課の担当事務員だった。
彼女は鹿児島生まれで小柄な明るく快活な、二十歳前の女の子だった。僕から見れば子供のような妹のような存在だった。その彼女が僕ごとき新入社員に(年は食っているが)何の用なんだろう?不思議に思いながら指定された喫茶店へ向かった。
「引っ越し手伝って欲しいんです」彼女は社長宅の一室に住み込みで暮らしていた。傍目から見ても、居心地が良さそうには見えなかったが、もう限界という感じだった。「いいですけど、引っ越し先は?」僕はうんと年下の彼女に、クソ丁寧な言葉遣いをした。彼女はクスッと笑って、「そんなところと、横顔が好きっちゃね!」とこれまたハッキリ言った。「えっ!・・・」僕は言葉が出なかった。全く異性としての意識もないそんな存在だった。でも目の前の制服を脱いだ彼女は、いつもとどかか違って見えた。「からかわないで・・・」精一杯の返答だった。彼女はそれには応えず「アパート決めてあるの。今度の日曜日お願いね!」もうノーの答えは彼女にはあり得ないという感じだった。
日曜日、軽トラック二往復で引っ越しは終った。彼女の表情には一種の開放感と自立の緊張感みたいなものが、複雑に入り混じっているように僕には写った。彼女の指示通りに家具の配置を終え、一段落ついたのは夕方近くになっていた。
「来週の土曜日、お礼したいから、会社の帰りに寄ってね」彼女は前回よりも更に女性っぽく、そう言った。九州女の特質というのか、ハッキリした嫌みのない爽やかな言葉だった。僕の対女性はいつもこうだな、彼女の言いなりだ・・・と自嘲気味に心の中でつぶやいた。しかし又それが心地よい僕の本質があるのも事実だった。
当日のことは、ご想像におまかせしよう。・・なんちゃって。
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