女性バーテンダーの魅力
雨の中、タクシーを下りて、小走りに目的のビルに駆け込んだ。
いわばシャンシャン的な組合の総会を終えて、僕はOさんと一緒だった。「こんな時間に家に帰っても、何もないよと言われそうだし、飲みに行くのも中途半端だなあ・・・」と言いながら、7時前にタクシーに乗り込んだのだった。
僕はOさんの行く店が興味深い。彼はフリーライターと言うこともあって、取材などでいろんな面白いというかユニークな場所を知っていた。特に酒にはこだわりがあり、僕のようなアルコールならなんでも良いと言うのとはちょっと違っていた。
彼はスナックよりバー派だった。何回か一緒に飲み歩く内に、僕もその気持ちがだんだん分かるようになってきたところだった。 何となく客サイドにもカウンターの向こうサイドにも、きちんとした主体があるような気がする。そしてカウンターが何とも言えない役目を持っていて、ひとつの境界線のような小さな川のような、かといって隔絶されるわけでもなく、微妙な距離が雰囲気を作り出しているように思える。
入った店は女性バーテンダーだった。小柄だが十分その空間を仕切るだけの存在感があった。スナックならいろんな小道具やカラオケでごまかされそうだが、バーはそう簡単には仕切れないなと思った。何より酒そのものの知識もさることながら、カクテルのテクニック加えて話題の豊富さなど奥深い人間性が要求されるような気がした。
Oさんは言った。「バーは一人で来るのはチョット・・・ネ。二人か三人。四人以上になると又ダメですね」と。ナルホド確かに。
「妖しそうな関係ですね」と彼女が冗談っぽく言った。「ええ、実は・・」と冗談で返した。酒は人間の内面のある種の秘め事も喋らせる魔力がある。秘め事とは大げさだが、あまり平素ひとに喋らないことを口にすることがある。このときも僕はひょんなことから身内の話をしていた。するとOさんが言った。「そのままにホームページに書かはったらよろしやん」そう、彼は僕のホームページを作ってくれたひとでした。そやな・・なんか心の中で吹っ切れたものがあった。
ウオッカとジンをベースにしたものを4,5杯飲んで店を出た。雨はまだちょっと残っていた。3階の階段のところで彼女が「傘ありますから〜!」と叫び、わざわざ下まで持ってきてくれた。「すみませんね〜」近くの露店でラーメンをすすりながら「傘返しにこなあきませんね。次の飲みに出る理由ができましたね」と笑いあった。僕は帰りのタクシーの中で「男のイイ友が出来たなあ〜」と嬉しく思った。
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