屋根裏
ビルの最上階の屋上に通じる階段の横に、エレベーターの機械室はあった。ちょっと頭を屈めないと額を打ちそうな天井の高さであった。僕はこの屋根裏部屋のような空間が好きだった。薄暗く油の臭いが充満していて、何より、ギー、ガタン、ギー、ガタンという規則正しい機械音が好きだった。機械は嘘をつかない、ひたむきに働き続ける姿が、当時の僕に勇気と希望を、我慢と試練を教えてくれた。
叔母の家に居たときも、僕はわざわざ裏庭の奥にあった古びた物置小屋で寝起きしていた。布団は使わずいつも寝袋の中で寝ていた。布団を使わなかったのは、自分への戒めでもあった。柔らかさと温もりは自分の決意を鈍らす誘惑のように思っていた。冬の夜、僅かに開いた寝袋の窓から見る夜空は、何に対してかは漠然としていたが、いつも「何クソ!」という思いで見つめていた。
手動式エレベーターの中は、孤独だった。静と動が極端だった。売り場への荷物の搬入は混乱を極めたし、昼食時の従業員の移動時も大混乱であった。しかし、全く誰も乗らない時間帯もあった。そんな時は薄暗い中で、ジーパンの後ろポケットの本を読むのが僕の楽しみのひとつだった。デパートは女性の園といわれるだけあって、僕ら田舎者のバイトには刺激が強すぎた。化粧品売り場のような華やかな売り場の彼女たちの言動は、時に僕を赤面させた。からかわれるような場面もしばしばであった。
僕は地下の食料品売り場の彼女たちが好きだった。化粧薄目の清楚な感じが僕を安心させた。そして何より仕事一筋というようなひたむきさがまぶしかった。僅かな休憩時間が勿体ないのか、エレベーターの中で足踏みをする彼女が微笑ましかった。僕が笑うと、頭のナプキンをとって微笑み返してくれた。白い清潔な制服の中にひそむ爽やかさにしばし心を奪われた。
後に彼女と話す機会があったのだが、ひとには誰にもそれぞれ歴史ありで・・・。これは又の機会に。
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