二十歳のエチュード(あきお版)
消極は悪なり 失敗を恐れず 明るく積極的に
いやいやながら仕事をする人間
それは牛馬と同じではないか
命ぜられただけをする人間
それは囚人と変わらない
自ら思い立って働く人間
それが人間らしい人間だ
ひとのいやがる仕事 わりの合わない仕事
それを喜んで引き受ける人
生かされている恵に感謝して
じっとしていられない心のほとばしりが
働きとなって表れる人間
それが人間の中の最高級の人間だ
頭でっかちな僕は、現実という壁に打ちのめされてゆく。現実はドロドロとしてつかみ所がなく、得体の知れない黒い渦となって、僕を飲み込もうとする。きらめく理想は泥にまみれ、転がり鋭い突起物にぶつかり、再起不能なまでに闇の中へ、押し流されてゆく。助けを求める声も出ず、居場所を知らせる手も挙がらず、骸骨のようにやせこけた頬は窪み、かろうじて己を主張する眼光だけが闇の中で光っていた。消えかかったろうそくの最後のひと光のように。まだ俺はギブアップしてないぞ。真一文字に結んだくちびるを渾身の力を振絞って、眠らぬように噛みしめていた。やすらぎの誘惑はすぐそこまでむかえに来ていた。上まぶたを落とせば楽になれる。もうそこまで追いつめられていた。だめだ、だめだ、辛うじて引き止める叫びがあった。スローモーションのように、マッチを擦り、手の甲に押し当てた。熱さより痛みが体中を駆けめぐった。開けていた筈の目は何も見えていなかった。しかしその一瞬で、視界は晴れ渡り、僕は最後の最後の力をこめて、立ち上がった。みんな、みんな、背中を向けてた人達が僕の方を向いて、微笑みかけていた。僕は黒い、暗い、果てしなく遠い、闇の世界から生還した。
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