わたなべあきおWeb

個人(主義)

ミセス・ステッファニーが僕という人間を改造してくれたことは間違いない。彼女はブロンズヘアーで足が長くすらりとした、まさにスレンダー美人だった。当時(二十歳)の僕は、今からは想像もつかない体型で、ウエスト73、ウエイト60弱のガリだった。いかに当時の食生活がヒドイものであったかが解るというものだ。しかし当時は僕もヒッピー風ファッションであったし、歩いても喫茶店で向き合っていても、結構サマになるふたりだった。

彼女の車はテントウ虫(スバル360)で実用主義のアメリカ人らしく、足代わりに動けばイイというもので、装飾も洗車もお構いなしという状態だった。今でも原理は解らないのだが、エンジンをかけるときは電線をショートさせていたし、車内は無造作に色んなものがゴミのように散らばっていた。ネズミ歳の僕だから整理整頓といきたいところだが・・、思いとどまっていつも助手席にのせてもらっていた。足長姉さんにはチョット窮屈な車ではあったが、まったく無頓着に鼻歌気分で、コワイ運転だった。

彼女はいつも僕に「あ・な・たはどう思うの?」「あ・な・たはどう考えるの?」を連発した。僕が一般論とか、「みんなは普通・・・」とか常識的なことを言おうとすると、「チッチッ」と言って人差し指を左右に振った。僕個人、僕固有の意見・考えを求めた。彼女が人間改造まで意識していたかどうかは別にして、確実に僕は変わっていった。対人恐怖症的な、赤面症的な僕のマイナス面はどんどん消えていった。

コーヒー一杯で二時間以上もねばるもんだから、最初店のマスターもあきれ顔だったが、回数が重なるにつれ、奥の一番落ち着くチョット薄暗いテーブルを用意してくれるまでになっていった。クラスのなかで一番平凡そうで、一番つまらなさそうで、一番シャイな僕だったのに・・・。日本人では学べない貴重な体験。たくさん色んなこと学んだなあ。相手の眼を見て話すこと。レデイファースト。テーブルマナー。そしてちょっとアブナイことも。あのころもらったエキスが僕のパーソナリテイ−の核(芯)を成している。

彼女はもう日本に居ないんだろうか?逢えればまた彼女は「チッチッ」と指を振るだろうか?そう、変に大人になってしまった部分のある僕。

(Update : 2004/01/26)