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背景の記憶(199)

 そういつまでもプゥ〜太郎もやってられないということで、僕はタイピスト学院の先生の紹介で、就職することになった。(アメリカ行きのために英会話とタイピスト養成の学校に通っていたのだ。今ならパソコン教室というところか)
 あいかわらず女性恐怖症(?)は続いていて、僕は営業ではなく、会話の少なくて済む技術的な分野を希望した。想定通りの展開で、僕は無難なスタートを切った。

 半年くらい経ったころ、事務所内の組織替えや配置転換があり、2課制になった。僕の所属した課には高校卒業して一年も経たない女の子が配属された。鹿児島
出身でまだ少女っ気の抜けない可愛らしい子だった。朝礼が終われば、夕方まで事務所には帰らない仕事だったから、ほとんど接点はなかった。当時はまだポケベルの時代で、よほどの緊急時でなければ、僕のポケベルが鳴ることはなかった。

 ある日の夕方事務所に帰ると、連絡メモの中に私的なものが含まれていた。彼女からのもので、開いてみると「バス停の近くの喫茶店で待っています」と書かれていた。五才違いでも今度は僕が年上だ。明るくて快活な彼女が何の用なんだろう?と不思議に思いながら、報告書を急いで書き終えて、指定された場所へ急いだ。

 制服を脱いで私服に着替えた彼女は、ちょっと大人びて見えた。呼ばれた意味が見当つかずでかしこまっていると、彼女の方から切り出した。「私はすぐに分かったんだけど、どうして営業じゃないんですか?電話とか聞いてたら、ゼッタイ営業向きだと思うんだけどな・・・」実は・・・とも言えず、僕はただ「人とあまり喋りたくないんだ」と答えた。そして「何か?」と尋ねると・・・

 「今、社宅にいるんだけど、アパートに移ろうかなって思って・・・で、わたなべさんに引っ越しを手伝ってもらえないかな〜ダメ? 家具とか荷物といっても、小型トラック1台で十分なの」

posted by わたなべあきお | - | -

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