わたなべあきおWeb

手紙

 届いた手紙の差出人住所には、「○○病院第二病棟」と書かれていた。急いで開封してみると、当然ながらご本人は入院中で、しかも手術不能の末期がん(肺臓、肝臓)であること、自覚症状は全くなく、日課としているウォーキングも続けていること、明朗志向で精一杯生き抜くということが、三枚の便箋に淡々と綴られていた。

 しかし、内容とは裏腹に、文字は明らかに乱れ、訂正個所には心の揺れが感じ取れた。本来ならすぐにでもお見舞いに行くべき存在の人なのだが、何せはるか遠方の地〜行くに行けない。

 こういう手紙には、どう返信したらいいのだろう。早速持ったボールペンだが、言葉が出てこない。「人生劇場の終演近く・・・」と書くほどの人である。上っ面だけのお見舞い言葉で済ませるわけにはいかない。

 僕は敢て禁句とされる言葉を用い、末尾に一行だけ祈りの言葉を添えた。彼ならこの直言的な手紙を理解してくれるはずだ。人間〜極まらなければ、真の心は見えてこない。まだ少し、いやかなりの時間的余裕がある。その貴重な時を如何に生きるか・・・それが問題だ。

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(Update : 2010/10/05)