わたなべあきおWeb

女装

小学校時代の夏休み、僕は故郷隠岐島で過ごすことが多かった。三歳ですでに島を離れていたので、本当の意味の幼友達はいなかったのだが、夏休みの間にその空白を埋め合わすかのように、近隣の同世代の友と遊んだ。

島の盆踊りは懐かしい。今でこそコンクリートの防波堤に囲まれて、昔の風情はないが、当時はホントに浜辺というのが相応しい場所が随所にあって、それぞれの集落で日をずらして行われた。

ある年の夏休み・・・僕は親戚の家に呼ばれた。何事か?と不審に思っていると、おばさんは僕と同い年の友をパンツひとつにして、ふたりに女装をさせ始めた。浴衣に赤い帯、頭は手ぬぐいでほおかむり姿となった。

暗くなるのを待って、私達(僕たち)はおばさんに連れられて盆踊り会場の浜辺へと向った。「やあ〜はあ〜となあ〜、やあ〜はあ〜となあ〜・・・」独特の囃子詞が聞こえてきた。踊りの輪のなかに私達(僕たち)は入りこんで行った。

すると、明らかに雰囲気の違うふたりを見つけて、廻りの人達が顔を覗き込んできた。「だ〜かいね〜(誰かね)」みんながしきりに名前のあてっこを始めた。

親戚の友は、さすがに顔が知れていて、すぐにばれてしまった。でも僕はなかなかわからない。かなりの時間踊りの輪は回転した。すると家の近所の男の子が「あ〜っ!新宅のあきちゃん!」
・・・これでみんなに知れてしまった。新宅はうちの屋号である。

楽しい仮装盆踊り。生涯たった一回の体験だった。それに女装体験。不思議な感覚がいつまでも残っていた。

(Update : 2004/08/14)