日記

 安倍先生は、いったい何のための医者かと私が苛立つくらいに具体的な治療をなさらず、少しずつ私が心に溜め込んでいるものを吐き出すように仕向けて下さった。
 じつはそれこそが、あのときの私にとって最良の治療だったのだと思う。
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 安倍先生は、「つらかったでしょう」とか、「あなたは強すぎる女性だから、もっともっと弱くなって、飽きるほど愚痴をこぼしたほうがいいんですよ」と言って、ひたすら聞き役に徹して下さった。
 きっと人間は、自分の中に淀んでいるものをさらけだしてしまわないと、他人の言葉を受け容れることができないのであろう。
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 日記をつけるなんて何年振りだろう。
 中学生の時から高校一年の夏まで、私は日記をつけていた。大学の受験勉強のために、日記をつけるのをやめたが、きのう、唐吉叔父様に「物を書くというのは、すでにそれ自体が考えるということだ」と言われて、今日から日記をつけようと決めた。
 この日記帳が、私の心のなかから吐き出されたものを吸い取ってくれる腕のいい精神科医になってくれればいいのに。
 そのためには、私はこの日記に決して嘘を書かないようにしなければ。恥かしいことも隠さず書こうと思うが、果たしてできるかどうか。

                  「月光の東」(宮本 輝)

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僕も・・・

若いころから日記を書いていた。

今思えば、それこそが僕の心の安定器の役割を果たしていたのだと思う。

そうでなければ、兄の行った世界と同じ道を辿っていたことだろう。

このブログも同じ意味合いを持つ。

posted by わたなべあきお | - | -

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