背景の記憶(214)

懐かしいのは
きみの吹くハーモニカ
あざやかな半音の切り返しに
クシコスの郵便馬車は飛ぶように走り去る

想い出の歌は
合唱コンクールの課題曲
なぜか先輩たちの年の「花のまわりで」が好きで
アルト担当部分の「♪まわ〜る」をいつも口ずさんでいた

小気味よかったのは
バスケ部のきみのパスまわし
ブラインドもバウンドもオーバーヘッドも
意のままにゲームをつくるきみが眩しかった

清々しかったのは
牧場の柵にもたれていたきみの横顔
長い黒髪をそよ風に透かせて遠くを見ていた
声をかけるのも躊躇われて僕はしばし見とれていた

頼もしかったのは
きみのドライブテクニック
サファリスタイルの車が似合っていた
「ナナハンにも」の話には想像するだけでもかっこよかった

羨ましかったのは
きみの書く流れるような文字
左利きを直された僕の角々文字とは真逆すぎて
もらう手紙は嬉しかったけど、出すのはほんとに恥ずかしかった

驚かされたのは
突然後ろから差しかけられた赤い傘
僕は濡れながら腰を屈めてとぼとぼと歩いていた
バス停で手渡された時、恥ずかしさと嬉しさでずっと握りしめていた
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posted by わたなべあきお | - | -

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